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なぜ『君たちはどう生きるか』が200万部も売れたのか?

なぜ『君たちはどう生きるか』が200万部も売れたのか?

 

 

2017年8月にマガジンハウスの『君たちはどう生きるか』が発売されてから、

わずか4カ月であっという間にミリオンセラーになりました。

 

マンガと四六版と2つ同時に刊行され、

2017年の1213日の増刷でそれぞれ95万部と24万部。

合わせて100万部を超えたのです。

 

2018年になっても、その勢いは収まらず、どんどん売れ続けて、

マンガと四六判と2つ合わせて200万部を越えるベストセラーになっています。

 

いったい、なぜ、いま、この本が、これほどまで売れるのでしょうか?

 

その秘密に迫ってみたいと思います。

 

 

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■原作者は反戦運動家の吉野源三郎

 

この本は、もともと1937年、岩波書店の雑誌『世界』の

初代編集長である吉野源三郎さんによって書かれたものです。

 

つまり、80年前の本なのです。

 

最初は新潮社の「少国民文庫」から出され、戦後、1958年にポプラ社から、

1981年に岩波書店から出されています。

 

そんな古い本がマンガになって、こんなに売れているというのは驚くべきことです。

 

同書が書かれた当時は、日本は治安維持法下にあり、

吉野さんは同法によって逮捕投獄されています。

 

執行猶予で釈放された時にこの本を書きました。

軍部の監視下に置かれていたので、執筆も大変だったと思います。

 

それで、児童書の体裁を借りて世に訴えたのが、この本だったのです。

 

1937年の日本が戦争に傾いていく時代の雰囲気と、

2018年の現代がどう似通っているのでしょうか?

 

80年のときを経て、2つの時代がつながっているということかもしれません。

 

■中学生が主人公のメッセージ性の高い小説

 

主人公は、お父さんを3年前に亡くした

中学2年生の「コペル君」こと本田潤一君。

 

母方の叔父さんが教師役となって、日常生活で直面するさまざまな問題に、

哲学的な教訓を与えてくれます。

 

コペル君は、叔父さんから多くのことを学び成長していきます。

 

●ものの見方について

天動説が地動説になったように、

コペル君は、自己中心的な世の中の見方から、

世の中の流れの中の一人が自分であると

見方を転換します。

 

●クラスのいじめにどう対応するか

 

いじめはもちろん悪いことですが、

クラスでいじめられている友達を見たとき、

あなたはどんな行動をとるでしょうか?

 

一緒にいじめるという選択肢はありません。

見て見ぬふりをするか、助けるかです。

 

叔父さんはコペル君に

「単に他人から教えられた立派な言動をとっても、

立派に見えるだけの人になってしまう、自分の体験から出発して、

自分で考えた立派な言動をとるべきだ」

と教えています。

 

 

●人間同士のつながりについて

 

コペル君はやがて、オーストラリアでつくられた

粉ミルクの缶詰を通して、見ず知らずの人と

助け合って生きていることに気づきます。

 

それを叔父さんに報告すると、

それはすでに「生産関係」として知られていること、

人類にとって役立ち、尊敬される発見は、

人類初の発見でなければならないこと、

そんな発見をするためには、現在の学問はすべて学び終え、

探求心を忘れてはならないことを教えてもらいます。

 

また、世界中で戦争の絶えない人類にとって、

どうすれば利他的な人間らしい関係が結べるかと問題提起します。

 

●貧乏について

 

コペル君には、貧しくて家業を手伝って、

学校に行かずに働いている友達がいます。

 

その話を聞いた叔父さんは、

貧しい人は見下す、金持ちにはぺこぺこする。

自分の貧しさに引け目を感じ、豊かになれば自惚れる

人間の価値を貧富で判断する人間は、軽蔑に値するとしています。

 

 

●偉大な人間とは

 

ナポレオンは、わずか10年でヨーロッパ全土の皇帝となり、

ヨーロッパとイギリスの通商を禁じて人々に迷惑をかけ、

ロシア遠征で多くの人を死へ追いやって失脚しました。

偉大な人物とは、人類の進歩に役立った人だと叔父さんは教えます。

 

 

●友人への裏切りについて

 

コペル君は、友人が上級生にいじめられたとき助けるという約束をしますが、

いざというときに、その約束を果たせませんでした。

 

その罪悪感と、これから裏切った相手にどう接していいかわからず、

コペル君は、学校に行けなくなります。

 

叔父さんは、いまの気持ちを正直に手紙に書いて友だちに送るようアドバイスします。

その手紙のおかげで、友だちと和解し、また、仲のいい友だちになりました。

 

 

 

 

 

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■叔父さんの教えはアレキサンダー大王の話で締めくくる

 

物語の最後、コペル君は叔父さんのうちの書斎で、仏像について話し合います。

 

「だけど、叔父さん、仏さまはギリシャ人がはじめて作ったって、その話、ほんとうかしら?」

 

「本当さ。イギリスやフランスの学者が、長年非常に苦心して、それを確かめたんだよ」

 

こんな会話から、ガンダーラ地方の仏像の話になり、

話はアレキサンダー大王の大遠征へと展開します。

 

「この地方にたくさんのギリシア人が住んでいたことは確かである。

では、どうして、ギリシア人がインドの西北部に、そんなに大勢住んでいたのだろうか。

それは、君たちも知っているアレキサンダー大王の、あの大遠征の結果だった」

 

大王の理想は何だったか?

それは、自分の制服した広大な土地に、西洋の文明と東洋の文明との、

溶けあった1大帝国を建設することだったのです。

 

日本が戦争に突入していった、根本の原因は、

欧米列強の植民地支配から独立するためでした。

 

 

そこには西洋と東洋の衝突があったのではないでしょうか。

 

 

 

■学校の先生たちが熱く指示した!

 

テレビで池上彰さんが、この本を絶賛して火が付いたという側面もありますが、

巷では、学校の先生たちが、この本を子どもたちに奨めたようです。

 

そんな先生たちのこんなコメントがありました。

 

「学校職員です。4冊購入して学級文庫に置きました」

 

「授業でも紹介しました」

 

出版元のマガジンハウスには「教師」「講師」らからの

読者はがきが次々と届いているそうです。

 

初めは60代以上の男性が多かったそうですが、

最近は女性からのものが多く、世代も幅広いそうです。

 

学校で漫画版や新装版を一括購入し、生徒らに配る動きも増えています。

 

関西大中等部は新入生に、

埼玉工業大は卒業生に寄贈。

 

そんな中、宮崎駿監督が製作中の長編アニメの題名が

「君たちはどう生きるか」になったといいます。

 

スゴイことです!

 

福岡県の私立大牟田高の保健室に勤める吉田知世教諭(29)は、

「読んでみると、80年前に出版された内容とは思えないほど、

今の子供たちの悩みとリンクしていると思いました」。

 

保健室には人間関係に悩む生徒がアドバイスを求めてやって来ます。

 

「経験が少ない私には、相談に乗ってあげられないこともある」

 

そんなとき、本書は「参考書」になるのだという先生もいます。

 

「誰だってコペル君のように、自分のことを小さく感じたり、

劣等感を抱いたりすることがありますよね。

おかげでいろんな助言ができるようになりました」

 

こうした先生たちに支えられて、

 

この本は200万部という大ベストセラーになったんですね。

 

 

 

■マガジンハウスの仕掛人が大ヒットの裏側を明かす!

 

この本の仕掛人のマガジンハウス執行役員・鉄尾周一さんが、

いろんな裏話をしています。

 

「もともと私がこの本を読んだのは学生時代、父に勧められてでした。

素晴らしい心にしみる本だとは思いましたが、

少し啓蒙的というか道徳的という印象でした。

 

ただ『自分のことは自分で決める』とか、キラーフレーズは頭にしみこんでいました。

その後、池上彰さんや宮崎駿さんが、この本を評価していたのは知っていました。

 

そして4~5年前、編集部で30代の編集者が『この本の愛読者です』と言ったのを聞き、別の女性編集者も『この本が好きです』というのを聞きました。

 

立て続けに若い編集者がそう言うのを聞いて、

良い本は時代を超えて受け継がれていくんだなと思ったのです。

 

ただ、そのまま出しても伝わりにくい。

その頃、マンガで伝える日本史とかマンガで解説する本がいろいろ出ていて、

この手法を使ったら違う『君たちはどう生きるか』ができるんじゃないかと思いました。時代によって伝え方は変わっていく。

今の時代の『君たちはどう生きるか』を出そうと思いました」

 

時代性について、鉄尾周一さんはこう言っています。

 

「今と書かれた当時がすごく似ているということがあります。

当時は80年前(1937年)で、第二次大戦の始まる前。

 

戦争が間近まで迫っていて、外的な状況も不安を感じていたでしょうし、

当時の方々は

『戦争に巻き込まれたらこれからの日本はどうなってしまうのだろう…』とリアルに、

皮膚感覚で感じていたと思います。

 

戦争が始まる前よりも、もっと不安感が強かったかもしれない。

 

そんな時代に書かれたものということもあり、

『不安』というキーワードは今と共通しています。

 

外的なところでいえば北朝鮮や安保の問題など、

ボタンの掛け違い一つで戦争になってもおかしくないという時代です。

 

これからの時代、日本はどうなっていくのかと考えた時に、

バラ色の未来を考える人はいないと思います。

 

『不安な時代』というのが共通しています」

 

 

■「世代や性別を超えた普遍性」について

 

「世代や性別を超えた普遍性」について、鉄尾周一さんはこう語ります。

 

「ベストセラーの条件として、できるだけ多くの人に

読まれなければならないと考えた時に、漫画ということもあり、

お父さんやおじいちゃんに勧められて読む小学生~高校生たちや、

 

実際に社会人生活をしている中で、

生き方に対して迷いが出たりする人も読者になると思います。

 

男性も女性もそれぞれコペル君の立場、

叔父さんの立場やお母さんの立場であったり、

ということを考えると男女すべての方に読んで頂ける作品です」

 

 

「時代にフィットした伝え方」として、本書は漫画化しました。

その点に関して鉄尾周一さんはこう述べています。

 

「時代によって伝え方はいろいろあり、

相手に手紙を書いていたことが電話になり、

今ではメールで伝えることが普通になった。

 

小説を小説で読まなければならないことは全然なく、

良さやエッセンスが伝わるのであれば漫画という形で伝えるのもありだと思います。

 

特徴的なこととして、学校の先生からの手紙が多く、

図書館の司書の方からも手紙を頂いています。

 

僕らの世代は『漫画なんか読まずに本を読みなさい』と言っていたのが

先生の決めフレーズでしたが、

今では先生が『漫画を読みなさい』という時代になった。

 

 

伝え方が変わっても良さを伝えられるのであればいいのではないかと思いますね」

 

 

 

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■まとめ

 

本書は、売れる要素が、2重にも3重にもかさなっていて、

それがうまく組み合わさって大ベストセラーにつながったのだということが、

よくわかります。

 

しかし、一番肝心なのは、作者の熱量の多さではないでしょうか?

 

反戦運動の活動家だった著者が、熱い情熱を込めて書いた、

言葉の一つ一つが、世代を超えて読者の胸に伝わるのだと思います。