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トランプがINF離脱したことで米露冷戦になるのか?

 

201921日、

ポンペオ米国務長官は中距離核戦力全廃条約(INF)の破棄を表明した。

 

INFというのは、アメリカとソ連の間で結ばれた

軍縮条約のひとつ。

 

核弾頭を搭載できるミサイルのうち、

中射程のものをすべて廃棄しましょうという約束だ。

 

その条約を破棄するということは、

「ウチは核をもっと作るぞ!」と言っているようなものだ。

 

 

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■なぜこの時期にINFを破棄するのか?

 

 

背景にはロシアだけでなく、ミサイル開発を進める中国の影もちらつく。

 

INF離脱に関し、トランプ大統領が

20181020日、記者団に語った内容はこうだ。

 

 「ロシアは長年、条約違反をしてきた。

米国は合意を破棄し、条約から離脱する。

米国もそうした兵器を開発しなければならない」

 

米国はオバマ政権の2014年から、

ロシアが開発する新型巡航ミサイル「9M729」の射程が「中距離」に相当し、

条約違反だと指摘している。

 

トランプ氏は

「米国が核兵器を削減する一方、ロシアや中国は逆行している」と言っている。

ロシアだけではなく、中国もターゲットにしている。

 

核兵器は第ニ次世界大戦以降、世界中に拡散している。

そして過去数十年で何千回もの核実験が行われた。

 

核兵器の数は現在、冷戦が最高潮だった時代に比べると減少しているものの、

その威力は著しく増した。

 

現在、9カ国が14525基の核兵器を保有している。

ごく少数の国、主にアメリカとロシアが核兵器を保有し、

北朝鮮のような新たな核保有国も出現した。

 

科学者は、広島型原爆の100倍の破壊力を持つ核兵器は、

それだけで「核の冬」を引き起こし、世界的な飢饉をもたらすと予測している。

 

「現在の保有数と1950年代の保有数の比較は無意味。

現在の核兵器の破壊力は極めて大きい」

と兵器専門家のハンス・クリステンセン(Hans Kristensen)氏と

ロバート・ノリス(Robert Norris)氏は語っている。

 

「核軍縮のスピードは著しく低下している。

核保有国は核軍縮を計画するのではなく、

強力な核兵器を保持し続けようとしているように思える」

 

例えば、北朝鮮は近年、核実験、ミサイル発射実験のペースを上げた。

2017年には、約10億ドル(約1100億円)規模の

経済制裁が行われていたにもかかわらず、

太平洋上で水爆実験を行うと主張した。

 

また北朝鮮は60基の核兵器、小型化された核弾頭、

アメリカ東海岸を射程圏内に収める長距離ミサイルを保有しているとみられている。

トランプ政権によって、北朝鮮は「非核化」に合意する文書に署名したが、

核兵器の開発をまだ続けているようだ。

 

トランプ大統領は17000億ドル(約190兆円)規模の

核兵器の近代化計画を引き継いでいる。

 

ロシアも同様に近代化予算を増やしている

 

 

 

■アメリカとロシアが戦争するのか?

 

トランプはロシアと戦争する気なのだとも言われている。

だが、両国にそのつもりはない。

 

トランプは国際政治に関して、言っていることが過激だが、

やっていることは現実主義だ。

 

トランプが、ロシアと戦争する気なら、

シリアなど中東がロシアの傘下に入りつつある現状をまず阻止するはずだ。

 

中国敵視もやめるはずだ。

米国に敵視された中国とロシアが結束

している現状は、トランプの対露戦争を不可能にしている。

 

INF条約に入っていない中国が

中距離ミサイルを開発できないようにするため、

トランプはいったんINFを失効させた後、

米露中で中距離ミサイル禁止条約を

再交渉する気だとかも言われている。

 

しかし、中国も取り込んで軍縮の新条約を作るなら、

INFを破棄する前に提案せねばダメだ。

 

今のように中露が結束している中では、たとえ米国と軍縮条約を結んでも、

それは米国にとって今より不利な条約にしかならない。

 

 

では、トランプの思惑はどこにあるのか?

 

 

■トランプのINF破棄は何のため?

 

EUが、軍事統合してNATOから自立しつつある今のタイミングで、

トランプはINFを潰して米露の軍事対立や軍拡競争を再燃させたことになる。

 

トランプは、NATO諸国に対し、

軍事費を増やして米国と一緒にロシアと戦えとけしかけている。

 

NATOというのは北大西洋条約機構のことで、

北大西洋条約に基づき、

アメリカ合衆国を中心とした北アメリカおよびヨーロッパ諸国によって結成された

軍事同盟である。

 

INFは、米国がロシア敵視の中距離ミサイルを欧州に配備することを禁じ、

欧州が米露戦争の戦場になることを避けるための仕掛けだった。

 

そのINFがなくなって米露対立が再燃する一方、

欧州(EU)自身は対米自立に動いている。

 

この状況下で米国がINFを離脱して対露敵視を強めると、

EUはそれに従うのでなく、米国を見限って対米自立する道を選び、

ロシアとの敵対を避けることが予想される。

 

それがトランプの意図でないかという意見がある。

 

INF締結から30年経ち、とくにトランプの登場後、

EUの対米自立の流れが加速している。

 

その流れを強めるために、トランプはINFを壊し、

米露対立を悪化させ、

EUが米国の過激なロシア敵視につきあわなくなるよう仕向けているのだと考えられる。

 

そもそもトランプは、選挙戦からNATO不要論をぶちまけて当選した。

NATO維持のためにアメリカが不当なまでに

コストを多く負担していると思っているのだ。

 

 

 

■トランプの思惑とは?

 

2017年にアメリカで大統領選挙中から

NATO不要論を掲げたドナルド・トランプが大統領に就任すると、

アメリカとそれ以外の軍事費負担の格差に不満を隠さなくなり、

 

20177月にはトランプがNATO総長との朝食会の場で、

ドイツなどに対して軍事費負担の少なさについて不満を展開。

 

「こんな不適なことに我慢していくつもりはない」

と主張するなど、

アメリカの関与を縮小する意向を示している。

 

20191月にはトランプがNATO離脱意向を漏らしたと報道された。

 

 

 

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■世界はどうなるのか?

 

ロシアと敵対するのだから欧州諸国は軍事費をもっと出して

米国の兵器を買えとトランプが、騒ぐほど、

欧州諸国は対米従属をやめて米露対立から超然としようとする。

 

NATOの結束が崩れていく。

 

ドイツ政府は最近、INFを離脱した米国が欧州に

中距離核ミサイルを配備するのは許さないと言い出し、

対米従属をやめる傾向を強めている。

 

イタリアやフランスなどで台頭している

ポピュリストの勢力も対米自立したがっている。

 

トランプの米国はINF離脱のほか、

ウクライナをけしかけてロシアと戦わせる策においても、

欧州に対して米ウクライナの味方をして

 

ロシア敵視に参加せよと強要することで、

欧州の対米自立やNATOの結束崩しを誘発している。

 

ロシアとウクライナの間にある黒海のアゾフ海で

ウクライナとロシアの戦闘が起きるかもしれない。

 

そうなるとEUは米露の間にはさまれ、

米国につきあってロシアと戦ってしまう愚策に進むわけにいかず、

対米自立を余儀なくされていく。

 

ウクライナ問題の本質は米露対立でなく、

米露対立にかこつけて欧州を対米自立させることにある。

 

 

 

■ロシアとウクライナが戦争するかもしれない!

 

20088月にはグルジア紛争が勃発、

NATO諸国とロシアの関係は険悪化し、

「新冷戦」と呼ばれるようになった。

 

ロシアは2002年に設置されたNATOロシア理事会により

準加盟国的存在であったが、

 

20088月の時点ではNATOとの関係断絶も示唆していた。

だが、20093月には関係を修復した。

 

しかしロシアはウクライナ、ジョージアの

NATO加盟は断固阻止する構えを見せており、

ロシアのプーチン首相は、

 

もし2008年のNATO-ロシアサミットで

「ウクライナがNATOに加盟する場合、

ロシアはウクライナ東部(ロシア人住民が多い)と

クリミア半島を併合するためにウクライナと戦争をする用意がある」

と公然と述べた。

 

プーチンは、ウクライナにおいて親欧米政権が誕生したのを機に、

クリミア半島及びウクライナ東部でロシアが軍事介入を行い、

ウクライナ東部では紛争となっている(クリミア危機・ウクライナ東部紛争)。

 

 

 

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■核兵器廃絶を目指す人々に希望はあるのか?

 

2017年のノーベル平和賞には、

ICAN(アイキャン:International Campaign to Abolish Nuclear Weapons)が選ばれた。

 

ノルウェー・ノーベル委員会は、その選定理由としてICAN

「核兵器廃絶を目指して活発に活動している」ことをあげた。

 

またICANの働きかけによって、

国連加盟122カ国が核兵器禁止条約に署名したことを指摘した。

 

20055月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で成果が得られず、

反核運動家の間に危機感が広がる中、

核戦争防止国際医師会議(IPPNW)のオーストラリアの会員が、

 

地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)の主導で

1997年に対人地雷全面禁止条約が成立したことに着目し、

20069月のIPPNW世界大会で核兵器禁止の条約づくりを提案した。

 

同大会に出席した広島市長の秋葉忠利が協力を表明し、

秋葉が会長を務める平和首長会議が最初の賛同団体になった。

 

条約づくりの取り組みの拠点として20074月メルボルンに事務所が開設。

 

核兵器禁止条約の採択などに貢献した。

 

 

■まとめ

 

トランプはアメリカファーストを掲げて大統領になった。

 

トランプは、世界中に展開している米軍のコスト負担を、

EUや日本に要求するだろう。

 

「要求をのまないのなら引き上げるぞ」

ということになる。

 

ここへ来て、トランプがINFを破棄したことで、

世界はまた大きく動きはじめるだろう。

 

ひとつのシナリオは、

ロシア、中国、EU、アメリカという多極化した形で、

世界の治安が維持されることだ。

 

世界がそのように動いているとしたら、

そのなかで日本はどう立ち回るつもりなのか?

 

誰も議論していないのは、大きな問題だ!!