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なぜ日本はいまでもアメリカに占領されているのか?

 

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、

首都圏の空の玄関口=羽田空港の国際線の発着便が大幅に増えることになった。

 

日本を訪れる外国人の数を、

2020年に4千万人に引き上げるという目標を打ち出した日本政府だが、

 

そのためには、旅客機の発着数を伸ばす必要がある。

 

しかし、国際線増便を実現するにあたって、大きな問題があるのだ。

 

それが、首都圏の空に広がる、在日アメリカ軍の「横田空域」の問題。

 

 

■羽田空港の国際便増発にあたって持ち上がった外交上の問題

2020年には、国際線の年間発着枠が、早朝・深夜の時間帯を除いて、

6万回から9万9千回に増える。

 

一日あたりの便数も、今の80便から50便程度増え、130便になる。

 

増加する50便のうち、ほぼ半数にあたる24便は、

日本とアメリカを結ぶ路線に割り当てられる。

 

残りの26便については、今後、アジアやヨーロッパの各国と交渉を進め、

具体的な路線を決めることにしている。

 

 

羽田空港の利便性が向上すれば、東京は世界中からヒト・モノ・カネを呼び込める。

そして、羽田空港の豊富な国内線と国際線を結ぶことで、

世界の成長の果実を地方にも届けることができる。

 

政府は、その経済波及効果は、年間6500億円にのぼると試算している。

 

 

ただ、羽田空港の国際線の発着枠を増やすためには、

東京都心の上空を通る新しい飛行ルートを作らなければならない。

 

 

羽田空港は、4本の滑走路が井桁の形に配置されていて、その時の風向きや気象条件に応じて、

様々な方角から出入りできるようになっている。

 

できるだけ多くの航空機が発着できるようにするためだ。

 

ただ、到着機が、北側から直線で進入するルートは、

都心の上空を通ることもあって、採用していなかった。

 

 

しかし、国土交通省が、様々な技術的検証を行った結果、

夕方の時間帯の旺盛な国際線需要に応え、発着回数を増やすためには、

このルートを採用する以外にないという結論に至った。

 

 

このため、政府は、南風の時、午後3時から7時の時間帯に限り、到着機が北側から進入する、

この新しいルートを採用する方針を固めた。

 

 

ただ、このルートだと、東京都心の真上を通ることになる。

 

 

埼玉県から、東京の練馬区や中野区、新宿区や渋谷区、港区や品川区など、

人口密集地の上空を縦断する。

 

 

周辺住民には、騒音や事故への懸念という問題があるのだが、

それとは別に、このルートを作るにあたって、ある外交上の問題が持ち上がった。

 

新ルートは、この練馬区の辺りで、数分間だが、

在日アメリカ軍の「横田空域」を通過しなければならないのだ。

 

 

 

横田空域は、東京西部にある在日アメリカ空軍横田基地を中心に、

南北で最長約300キロ、東西で最長約120キロの、1都9県に及ぶ広大な空域。

 

 

高度約2450メートルから約7000メートルまで6段階の高度区分で立体的に設定され、

日本の領空ではあるが、アメリカ軍が航空管制を担っている。

 

航空管制というのは、航空機の安全な運航のため、離着陸の順序や飛行ルート、

高度などを無線やレーダーで指示し、管理する業務のこと。

 

日本では、通常、国土交通省の航空管制官が行うが、在日アメリカ軍の飛行場やその周辺では、

特例として、アメリカ軍が行っている。

 

 

「横田空域」というのは、

アメリカ軍が戦闘機の訓練や輸送機の運航などに優先的に使用できる空域で、

民間機は、アメリカ軍の許可がなければ通過できない。

 

 

一便ごとにいちいち許可を得るのは現実的ではないので、羽田空港に出入りする民間機は、

横田空域を迂回するルートを取っていた。

 

 

 

ただ、今回の新ルートは、横田空域を一部、通過しなければいけないので、

日本政府は、アメリカ軍と交渉を続けていた。

 

 

当初、アメリカ軍は、軍用機の運用に支障が出かねないと難色を示していた。

 

ただ日本側が「新ルートを設定できなければ、オリンピックの運営に支障が出かねない」と理解を求めた結果、

2019年1月末に、アメリカ側も受け入れてくれた。

 

 

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■なぜ日本の空なのにアメリカ軍の許可が必要なのか?

 

日本の領空なのに、飛行するのにアメリカ軍の許可が必要になるという根拠は、どこにあるのか?

 

それは、

1975年の日米合同委員会の「航空交通管制に関する合意」にある。

 

これは、日米地位協定に基づいて、アメリカが使用している飛行場とその周辺について、

アメリカ軍が引き続き、管制業務を行うことを認めるものだ。

 

つまり、アメリカ軍が、太平洋戦争後の日本占領時代から行ってきた管制業務を

そのまま続けるのを認めるという内容で、

 

要するに、占領時代からのアメリカ軍の既得権益を認めたものである。

 

 

ちなみに、日米地位協定とは、

日米安全保障条約に基づいて、日本に駐留するアメリカ軍将兵の法的地位などを定めたもの。

 

 

日米合同委員会とは、地位協定の具体的な解釈や運用について協議する機関。

 

外務省の北米局長と在日アメリカ軍の副司令官をトップとする官僚と軍人の枠組みで、

その議事内容は、原則非公開だ。

 

つまり、横田空域は、日本の空の主権に関わる重要事項だが、

国民の代表である国会の直接の関与がない中で、決められているものだということだ。

 

 

 

世界的にみても、これほど広大な空域の管制を外国の軍隊が担っている例は、他にない。

 

少なくとも、日本と同じ第二次世界大戦の敗戦国で、

アメリカ軍が大規模に駐留しているドイツとイタリアにはない。

 

沖縄県が行った「他国地位協定調査」によると、

ドイツでは、アメリカ軍機も、ドイツの航空法に基づき、

ドイツ航空管制というドイツ政府が100%出資した法人が行っている。

 

イタリアの場合は、アメリカ軍基地に、必ずイタリア軍の司令官がいて、

アメリカ軍基地の航空管制もイタリア軍が行っているということだ。

 

 

これに比べて、日本政府は、公務遂行中のアメリカ軍将兵には、

日本の国内法は適用されないという立場で、

アメリカ軍優位の地位協定の改定にも消極的だ。

 

 

ただ、国民生活に影響を与えるような問題や占領時代の残滓ともいえる状況が、

放置されたままで良いはずがない。

 

 

 

「日本の空」がすべて戦後70年以上経ったいまでも、完全に米軍に支配されているということは、

じつは日本の法律の条文に、はっきり書かれている「事実」だ。

 

 

下は1952年、占領終結と同時に、新たに制定された日本の国内法(航空法特例法)の条文だ。

そこにはまさに、身もフタもない真実が書かれている。

 

 

航空法特例法 第3項

「前項の航空機〔=米軍機と国連軍機〕(略)については、航空法第6章の規定は(略)適用しない」

 

 

ここで重要なのは、この条文で「適用しない」とされている「航空法第6章」とは、

航空機の安全な運行について定めた法律だということ。

 

 

つまり、「離着陸する場所」「飛行禁止区域」「最低高度」「制限速度」「飛行計画の通報と承認」など、

航空機が安全に運行するための43ヵ条(第57~99条)もの条文が、

すべて米軍機には適用されないことになっているのだ。

 

 

要するに、もともと米軍機は日本の上空において、どれだけ危険な飛行をしてもいい、

それは合法だということなのだ。

 

この条文のもとで米軍は、1952年に占領が終わったあとも変わらず日本の上空で、

なんの制約も受けずに飛ぶ権利を持ち続けた。

 

 

そして、それから60年以上たった現在に至るまで、この条文はひと文字も変更されていない。

 

そのことだけを見ても1952年の「独立」や、1960年の「安保改定」が、

いかに見せかけだけのものだったかがわかる。

 

 

■アメリカの占領状態はまだまだ続くのか?

米空軍が横田なら、海軍は横須賀港だ。

 

 

横須賀基地は、

ハワイのホノルルに司令部を置く太平洋艦隊の指揮下にあり、

西太平洋・インド洋を担当海域とする第7艦隊が前線から帰還する基地になっている。

 

 

揚陸指揮艦ブルー・リッジも、第7艦隊旗艦として横須賀港を母港にしている。

 

 

一方、米国の陸軍は横浜港の瑞穂埠頭(ふとう)にある港湾施設「ノースピア」を持っている。

陸軍がいなくなって、ヘッドクオーター(司令部)もなくなってしまったのだが、

瑞穂埠頭はまだ返還されていない。

 

 

ここは横浜のど真ん中にある。

 

だから、IR(カジノを含む統合型リゾート)を横浜がやりたいのであれば、

瑞穂埠頭を使うのが一番いいはずだだが、

 

ここを取り返さなければいけない。

 

 

1952年4月28日に発効した軍事同盟である日米安保条約は、

 

「我々が望む兵力を、(日本国内の)望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保すること」(米側の条約交渉担当者・ダレス国務省顧問。1951年1月26日)

を最大の目的に結ばれた。

 

 

そのために日本のどこへでも米軍基地・演習区域を置くことができる「全土基地方式」を取った。

アメリカが占領中に日本全国に置いた米軍基地を、そのまま 使い続けられるようにしたのだ。

 

 

それが今日も人口密集地のど真ん中で爆音と墜落の恐怖をまき散らす普天間基地(沖縄)や

横田基地(東京)などが存在する理由だ。

 

しかも米軍は、占領軍のような治外法権的特権を今もあたえられている。

 

たとえば米軍機は、日米地位協定にもとづく航空法特例法によって、

民間機には適用されているさまざまな義務を免除される。

 

 

免除されるものには、最低安全高度の順守、飲酒・麻薬使用者・心身障害者の操縦禁止、

出発前の安全確認義務、危難の場合の報告義務、飛行禁止区域の順 守、速度制限の順守、

衝突予防義務、編隊飛行の禁止、粗暴操縦の禁止、爆発物の輸送禁止、物件の曳航・投下、

落下傘降下の禁止、曲技飛行の禁止など、さまざまなものが含まれる。

 

 

さらに、

日本政府は現在、演習区域外でも米軍機が訓練することを認めている。

 

もともとは日本政府も「演習は演習区域内に限る」としていたのに、だ。

 

1960年5月11日、衆院日米安保条約特別委員会において、

赤城宗徳防衛庁長官は「米軍は上空に対しても、その区域内で演習する。こういう取り決めとなっている」

と発言している。

 

丸山佶調達庁長官も

「空軍の演習の場合には、演習区域というものを指定している。したがって、その演習は、その上空においてのみおこなわれることになる」と言っていた。

 

 

それが、次のように変わってきた。

 

「空対地射撃などを伴わない単なる飛行訓練は、…我が国領空においては施設・区域上空でしか行い得ない活動ではない」(外務省「日米地位協定の考え方」増補版、1983年12月)

 

 

「日米地位協定に特段の規定がなくても、軍隊の通常の活動に属すると思われる行動については、

米軍が駐留を認められている結果として当然認められるべき ものである」(1988年2月23日、衆院予算委員会、斎藤外務省条約局長)

 

 

「戦闘即応態勢を維持するために必要とされる技能の一つが低空飛行訓練であり、

これは日本で活動する米軍の不可欠な訓練所要を構成する」(外務省「在日米軍による低空飛行訓練について」1999年1月14日)

 

こうして日本政府は、米軍による演習場外での低空飛行訓練を公然と認めるようになった。

 

各地で日本の航空法に定められた市街地上空300という 最低安全高度が破られているが、

政府は「米政府も守ると言っているから守っているはず」の一点張りで、是正させようとはしない。

 

 

さらに低空飛行訓練をおこなうルートは、米軍が勝手に決めている。

 

沖縄の普天間基地に新型輸送機オスプレイが配備される際、

米軍は初めて6つの低空飛行ルートがあることを認めた。

 

 

・ピンクルート

 

・グリーンルート

 

・ブルールート

 

・オレンジルート

 

・イエロールート

 

・パープルルート

 

 

 

この6つに加えて、

 

・ブラウンルート

 

 

しかしあくまでもこれは「基本」で、それ以外でも訓練するというのが米軍の立場だ。

 

つまり日本全国どこでもオスプレイなどの米軍機訓練がおこなわれる可能性があるということだ。

 

 

オスプレイは開発以来、すでに9回墜落し、38人もの乗員の命が失われた

「空飛ぶ棺桶」とさえ呼ばれる欠陥機だ。

 

回転翼機の場合、エンジンが止まった際でも揚力を使って翼を回転させ続け、

不時着する機能(オートローテーション機能)を持つことが義務づけられている。

 

オスプレイにはこの機能がない。

 

エンジンが停止すればまっさかさまに墜落してしまうため、

本来、日本の航空法では飛行が認められない。

 

だからこそ、沖縄県民はこぞって全機撤去を求めている。

 

 

現在、沖縄に配備されたオスプレイ24機の訓練が「沖縄の負担軽減」の名で、

全国に拡大されようとしている。

 

 

日本の空を米軍が支配する異常な構造をなくすためには、

その根源である日米安保条約を廃棄しなければならない。

 

 

その日まで日本はアメリカに支配され続けることになる。

 

 

 

■日本はアメリカが支配しているのだぞ!

横田空域の他に

こうした米軍が支配する空域の例は、日本国内にあとふたつある。

 

中国・四国地方にある「岩国空域」と、2010年まで沖縄にあった「嘉手納空域」だ。

 

岩国空域」は、山口県、愛媛県、広島県、島根県の4県にまたがり、

日本海上空から四国上空までを覆う、巨大な米軍管理空域だ。

 

 

 

この空域内の松山空港に向かう民間機は、米軍・岩国基地の管制官の指示どおり飛ばなければならない。

 

空域のすぐ西側にある大分空港へ向かう民間機も、高度制限など大きな制約を受けている。

 

 

2016年にオバマ大統領(当時)が広島を訪問したときのことだ。

 

アメリカ大統領による初めての「歴史的な」広島訪問に際して、

オバマ大統領は中部国際空港から大統領専用機で米軍・岩国基地に移動したあと、

この岩国空域を通って、海兵隊の軍用ヘリで原爆ドームへ向かった。

 

車で行けばわずか40キロ、たった1時間で行ける距離をわざわざ軍用機で、

しかも4機のオスプレイに先導されるかたちで移動した。

 

さらに同行する大統領付きの武官は「フットボール」と呼ばれる核兵器の「発射キット」を携行していた。

 

 

アメリカ大統領とは、すなわち核兵器を世界戦略の中心に据えた世界最強の米軍の最高司令官であり、

彼は日本の上空を事実上自由に、

自国の軍用機を引き連れて移動することができる。

 

これがノーベル平和賞受賞大統領の広島訪問だ。

 

核兵器発射キットを持って、

原爆を投下した国の大統領が広島へ軍用機に乗ってやってきたのだ。

 

 

「日本はアメリカが支配しているのだぞ!」

と言わんばかりの演出ではないだろうか?

 

 

■まとめ

 

 

 

2019年6月に、

「日米安保条約」の破棄を、

トランプ大統領が言及したことがある。

 

 

トランプ大統領が近い人物との「私的な会話」において、

日米安保では米国だけが日本の防衛義務を負い、

日本には米国防衛の必要がないことを「一方的で不平等」と不満を漏らしたというのだ。

 

 

専守防衛を大義とする日本は、

自分で自国を守ることはできない。

 

 

竹島を韓国に占領していても、

実力で取り返すこともできないし、

 

自国民が拉致された事実の前でも、

何もできないのだ。

 

日本を

戦争のできる国にして、

外交上の交渉に軍事力をちらつかせるのか?

 

それとも、

粘り強い対話によって外交交渉を続けるのか?

 

 

いつまでもアメリカのATMでいるのはごめんだし、

隣国になめられてばかりでいるつもりもない。

 

日本国民の怒りが少しずつ蓄積されつつあるなかで、

この怒りをどこへ向けるのかが、

 

重要となるだろう。

 

今回、

「オリンピックに支障ができるから」という理由で、

横田空域の一部を米軍が使用許可したわけだ。

 

あきらめずに対話を続けることも、

決して忘れてはいけない。